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あるバンドマンの若い頃の話ですわ。
バンドの世界へ入って2年くらい経った頃・・・
ビッグバンドのトラ(エキストラのこと)で、森進一ショーのバックをしてた時・・・
そのビッグバンドのマネージャーが舞台の袖に来て、大きな画用紙みたいな紙に「◯◯さん!ヤバい!逃げろ!」て書いたのを見せながら、大きな口を開けて首を上下に振ってるのが見えた。
そのバンドマンの名前が書いてあって、充分に心当たりが有るもんやから・・・
バンマスの人に・・・
「すんません!ちょっと、急ぎの用が出来たんで、失礼します!」
言うて・・・
何を思ったか、楽器をイスの上に置くなり、ステージから飛び降りて客席の中を一目散に走り出したんですわ。
「なんで、そんな事しましたん?」
「マネージャーが知ってるゆう事は、舞台の裏手には連中が居るゆう事やろ?」
「連中て?」
「ザーヤクや!」
「うわっ!また、なんで、ザーヤクなん?」
「ザーヤクの女に手ぇ出したから!」
「なるほど!」
客席を走り抜けて、重いドアを開けて受付の女の人に・・・
「すんません!これ、預かって下さい!」
着ていた上着を渡して、正面入口を出ようとしたんや。
「また、なんで?上着を?」
「ビッグバンドのお揃いの上着やで!真っ赤っかーのユニホームやで!」
「あらら・・・」
「目立ってしゃーないがな!」
「そやね・・・」
そして、正面入口のドアを開けた途端。
『どこ行くんや!』
野太い声が聞こえて、振り向くと・・・
『えっ!』
エラいパンチの利いた顔したオッサンが二人して寄って来ましてなぁ・・・
『アカンがな!兄ちゃん!』
『そやそや!仕事中にどこ行くねんなぁー』
『あっ!はい!ちょっと、急ぎの用で・・・』
『そうかぁーワシらも急ぎの用があんねん!一緒やなぁー』
『そうですか・・・では、失礼しますぅー』
『ちょっと待ったらんかい!!
◯◯◯! 』
『はいーーーー!!』
『やっぱりな!ワシらの用は、お前にあんねん!』
そのまま、ベンツの黒塗りに押し込まれてしもて。
『ここで、大人しゅうしてるんやで!』
一人が、仲間の皆さんを呼びに行きはって・・・
全員揃た所で、『出発進行!!」』
車の中では、皆さん・・・終始無言でねぇ・・・
(嫌な雰囲気・・・)
40分も走ったかな。
玄関の上に「◯◯興業」てデカい木彫りの表札が掲げてあって。
『入らんかい!』
『失礼します!』
中に入ったら、両脇の壁の上にズラーーーっと赤い提灯が掛けてあったな。
「なんで・・・提灯なん?」
「知らんがな・・・」
「他には?」
「お前、なんか・・・興味本位で聞いてるやろ?」
「いえ・・・そんなことは・・・」
「ちょっと、疲れた・・・もうエエやろ?」
「なんでぇなぁー・・・今からがエエとこやん!」
「エエとこぉー?お前、シバくぞ!」
「またぁー」
「とにかく、今日は気分が乗らん・・・はい!オシマイ!!」
「アチャー!!」
つづく ・・・かも
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