Jazz日記 in 本になるはずだった原稿/VOL.1【アート・ブレイキーとのDUO】

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【アート・ブレイキーとのDUO】



夜中の1時過ぎに一本の電話があった。


六本木にあるライブハウス「ルート66」のオーナー近藤さんからであった。


『今津くん、今ねウチの店にアート・ブレイキーが来てるんだよ!』


『ええ!ブレイキーが?』


『ブレイキーだけじゃないよ、フレディ・ハバードも』


『フレディも?』


『カーティス・フラーも来てるし』


『ちょ、ちょっと、それじゃー』


『そう!ウォルター・デイビスJrもね、残念ながらテナーのベニー・ゴルソンはホテルに帰っちゃったけど、その他のメッセンジャーズのメ

ンバー全員が揃っているんだ、今津くんテナー持って来る?っていうか、絶対に来るよね?』


『絶対に行きます!それじゃ後で!』


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ガチャンと電話を切った俺は頭が真っ白な状態になったが(落ち着け!落ち着くんだ!)と楽器と免許証、それに財布をポケットにネジ込み車に乗り込んだ。


千葉の行徳から車を飛ばして高速に入り、高速を降りるまでアクセルは踏みっぱなし。


よく事故らなかったと思う。


店近くに路上駐車したまま店の前まで行った。


直ぐに店に入ればイイのにドアの前で足が止まってしまった。


この先にアート・ブレイキー達が居ると思っただけでなんだか気持ちが悪くなってきた。


会えることだけでも幸運なのにドアの前で立ち尽くしたまま動けなくなっているのだ。


(アカン!ちゃんとせんとアカン!)


自分が何の為にここに来たのか、それを理解した瞬間『ええい!ままよ!』と思いっ切りドアを押した。


思いの外、勢いが付いてしまったのか全開になったドアが何かにブチ当たって「ガシャン!」と鈍い音を立てた。


幸いなことに客席にまでは聞こえていなかったらしく、何事も起こらなかったがオーナーの近藤さんだけは俺に気づき、笑いながら『今津くん、ようこそ!』と近寄って来てくれた。


『はい!すっ飛ばして来ました』


『だよね、電話を掛けてから40分も掛かってないもんね』


いつもは、自宅から六本木の店まで1時間半から2時間は掛かるのだから、運転の下手な俺にとってはそれこそ命がけで猛スピードを出していたんだと思う。


『みんなスッカリ寛いじゃってね、これじゃセッションは期待できないから一緒に飲もうか』


『・・・・・・・・・・・・』


『どうしたの?みんなに今津くんを紹介するからこっちにおいでよ』


『はぁ・・・』


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俺は完全に肩透かしを喰らった気分になり、直ぐに近藤さんに付いて行く気にはなれなかった。


(違うな!これは違う!俺はブレイキー達とセッションが出来ると思たから楽器持って全速力で来たんや!)


(一緒に飲むて、向こうからしたら「こいつ誰やねん?」としか思わんはずや)


(こっちはサックス吹いてナンボやのに、酒飲みながら愛想笑いするだけて・・・)


(アホらし!それやったら帰るわ!)


俺に気を使ってくれた近藤さんの気持ちは解る。


でも、それと同時にアート・ブレイキーやメッセンジャーズの面々にも気を使ってのことだろう?


それは俺がアート・ブレイキー達と同じ席で酒を飲むことに喜びを感じ、良い思い出として満足すると思っているからだろう。


俺にはそこが気に食わなかった!


うまく言えないが、同じジャズ・ミュージシャン同士として話をするなら何の文句もない。


だが、俺だけが知っていて向こうは知らないなんて関係での交流なんて絶対に嫌だ。


19歳の頃、テナーの高見延彦さんに言われた『今津くん!ナベサダやヒノテルも僕たちと何の変わりもない無いことを忘れないようにね!


同じミュージシャン同士なんだから対等に演奏して対等に会話するのは当たり前のことなんやからね!』という言葉はそのまま俺自身の大物ミュージシャンに対する考え方となっていた。


少し話が逸れるが、自分より格上のミュージシャンと演奏する時には「遠慮なく喰い付かせて戴きます!ガブッ!とね」という気概が大切だと思う。


それは自分の存在を知って貰う為でもあり、表現者としての義務でもある。


例え未熟で下手くそであっても、持ちうる限りの力を発揮して戦いの精神で挑んでいくのが格上のミュージシャンに対しての礼儀だ。



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ブツブツ言いながらも、すでにケースからサックスを取り出していた俺の気持ちは決まっていた。


組み立て終えたサックスをストラップに掛け、ゆっくりと客席の方へ歩いて行った。


『近藤さん、一曲だけ吹かせて貰いますね』とだけ言うと、ステージの方へ。


ステージに立った俺は不思議なことに普段よりも落ち着いた気分になっていた。


そして、ゆっくりとスロー・ブルースを吹き出した。


目をつぶっていた俺の耳から話し声が消えた。


さっきまでの喧騒が急に「シーン」と静まり、俺のサックスの音だけが響いている。


比喩でよく「シーン」という言葉を使うが、その時は正しく俺の音以外は「シーン」という音がしていた。


目を固く閉じて吹いていたのだが、ふと目を開けたくなった。


(あまりにも静かすぎるしなぁ、ホンマに聴いてるんやろか?)


ゆっくり瞼を上げてみた。


俺の視線に入って来たのはデカい目を見開いたフレディ・ハバード。


身を乗り出してこっちを睨みつけている。


(うわわわー アカン!)


思わず目線をそらした俺を今度はカーティス・フラーが眉間に皺を寄せながら、鋭い眼差しで見つめていた。


すぐに目を閉じた俺はブルースのことだけ考えるようにした。


いくら恐ろしい目で睨まれても、例え『やめろ!下手くそ!』と罵声を浴びようと俺には確実に安心できるものがある。


それは...(まぁ、命までは取らんやろ!)


スロー・ブルースから4ビートのブルースにテンポを上げて演奏しだした。


しばらくすると、後ろでドラムの音がしてシンバル・レガートが俺のブルースにピッタリ合わせてきた。


後ろを見ると、渡辺文男さんだった。


(文男さんも来てたんや...)


俺は急にホッとして(これで少しは余裕を持って吹けるな、ありがたい)と思い、二人でオーソドックスなブルース演奏を楽しみ出した。



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ちょっとイイ感じになった時、急に文男さんの音が止んだ。


(なんやねんなぁー!なんで叩くの止めるんよ!)


(くっそー!また俺一人っきりになってしまうがな)と思うか思わないうちに、いきなり聴いたこともない太い音のシンバル・レガートが鳴

り始めた。


『ジャンジャカ!ジャンジャカ!ジャンジャカ!ジャンジャカ!』


『ズダダダン!ズダダダン!』『ンッチャ!ンッチャ!ンッチャ!』


すると、客席から大きな拍手と歓声が湧き上がった。


(なんや!なんや!何が起こったんや!)


思わず振り向くと、そこには大きな口から舌が丸見えになったアート・ブレイキーがいた。


(うわわわわー)


思いもよらない事態にドギマギしたが、挨拶だけはしないとマズいだろう。


だが、挨拶しようにもサックスを吹いているので何も言えない、取り敢えず深々と頭だけ下げた。


『ヘーイ!$R)Jn@ゴー!&F$』とか言っているのだが、よく聞こえない。


そんなことよりも「天下のアート・ブレイキー」が後ろでドラムを叩いている。


近くで見ることさえ中々できないのに、俺と一緒に演奏してくれているなんて。


信じられない事だが、紛れもない現実である。


今まで経験したことの無いドラム・サウンド。


そのアート・ブレイキーの叩き出すサウンドとは。


それまで俺が知っているドラム・サウンドは、何かが鳴ってる、例えばトップシンバルがあの辺りで鳴っていて、ハイハットがこの応りで鳴っていて、スネアドラムの音、タムの音、ベードラの音、それぞれが独立した感じで個別に聴き分けられるというものだった。


ところが、トップシンバル、ハイハット、スネアドラム、タム、ベードラ、そのすべてがミックスされ、一つの音の壁のようになってズン!と響いて来る。


オーケストラの打楽器パートが違う楽器を何人かで混ぜ合わせた厚みのある音の響き。



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俺はソロの終了を切っ掛けにブレイキーと4バースのチェイス(4小節ずつ交互にソロ演奏すること)を始めた。


レコードで馴染みのフレーズが出る度に客席からの拍手も大きくなっていく。


何回かのチェイスの後、俺の方を見て右手の親指で自分の胸を小刻みに叩いた。


俺はブレイキーの方に左手を大きく伸ばして(フリーソロですね、どうぞ!)と合図した。


たった一人で叩きまくるブレイキーは次々とお得意のフレーズを繰り出し、その度に客席を沸かせていく。


極め付きは「ナイアガラの滝」と称されたドラムロール、それに情熱的なアフロ・キューバン・リズムを叩き出した時だ。


勿論、シンバルを「シャーン!シャーン!シャーン!」と3回打ち鳴らす豪快技もこれでもかという位に披露してくれた。


これではジャズ・フェスティバルのステージと何の変わりもない。


このパワー全開のソロにフレディやカーティス・フラーも我を忘れたかのように満面の笑顔で大きな声援を送っていた。


ブレイキーの合図で俺が「ソニー・ムーン・フォー・トゥ」のテーマを吹き演奏は終了した。


俺はブレイキーの前に行って感謝の気持ちを伝えようとしたが言葉が出てこない。


するとブレイキーが俺の手を握りしめて握手する格好となった。


自分でも解るぐらい顔が真っ赤になっていく俺に一言、二言ブレイキーが何か言ったが緊張と興奮でサッパリ理解できなかった。



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おかしなもので、一緒に演奏している時は感情がうわずるとか緊張するとか余計なストレスなど感じなかったのに、いざステージを降りて改めてアート・ブレイキーの前に立つと変な震えや引き攣りで心も身体もバラバラになった感じがした。


『今津くん、ありがとう!デカい火を付けてくれたね!カウンターで飲もうか!』


『はい!』


楽器を置いて近藤さんの隣で飲み始めているとウォルター・ビショップJrがピアノを弾きだした。


『ハハハー!御大が叩いたもんだからメンバーも黙って飲んでられなくなっちゃったかな?』


結局、日が昇る頃までジャム・セッションは続いていました。


この話にはまだ続きがありまして。


記念すべきアート・ブレイキーとのDUO共演を果たしてから何日か経って「ルート66」に行った時のことでした。


近藤さんが『今津くん、カーティス・フラーが君のことを凄く褒めていたよ。


彼が言うには、あの若造は今の演奏スタイルのままあと7年頑張れば俺たちと同じ位置で演奏できるようになるだろうってさ。


つまり一流になる可能性は充分にあるってことだね!』


お世辞を言ってるんじゃないかと色々と聞いてみたが、近藤さんの話をじっくり聞いているうちにカーティス・フラーが本心から言ってくれた事がよく理解できた。


『有難うございます!』


『7年かぁ、今津くん今いくつだっけ?』


『26になったばかりです』


『ということは33歳には世界の一流どころと肩を並べるワケだ!凄いじゃん!楽しみだねぇー』


後にその時の話が多くのミュージシャンの知る所となり、事ある毎に『恐ろしかっただろ?』『怖くはなかったの?』と散々聞かれた。


恐ろしいとか、怖いとか、そういう心境じゃなかったのだけは確かだ。


ただ、もしもフレディ・ハバードやカーティス・フラーたちが冷たい薄笑いを浮べていたり、失笑されていたら、最悪だったと思う。


それだけでも、俺は幸運だったんだと思う。



実は、後年その夜の写真をネットで見たことがありましてね、写っていたのは渡辺文男さん、アート・ブレイキー、今津雅仁、近藤さん、近

藤さんの奥さん。


そして近藤さんが思い出深く短い文を書い添えていたように覚えています。


確か、現在はアメリカのロサンゼルス在住だとか。

   


           おわり



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# by funky-ts-kr | 2018-12-10 13:57 | 切羽詰まってバンドマン! | Trackback | Comments(0)